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更年期の胸の痛みと微小血管狭心症

[2019.09.08]

先日、性差医療(男女の様々な差異により発生する疾患や病態の差異を念頭において行う医療)の第一人者で循環器内科医でもある、天野恵子先生のテレビ番組が放映されていました。その番組で「微小血管狭心症」という病気が取り上げられていました。一般的には聞きなれない病名ですが、実際の医療現場では多くの方にその可能性がある疾患です。特に更年期と言われる40代後半~50代前半の女性における胸の痛みの原因としても重要な疾患です。

微小血管狭心症とは

狭心症は心筋に血液を供給している冠動脈が狭くなり十分な血液が送れなくなった時に生じます。これには従来、血管内に脂分が蓄積して物理的に狭くなる「労作性狭心症」と普段は血管に問題はないが発作時に血管が痙攣(収縮)して狭くなる「冠攣縮性狭心症」の2種類があります。これらはニトログリセリンが有効なことが多いので、これまでニトログリセリンがきかない胸痛は狭心症ではないと考えられ、心臓神経症とか肋間神経痛などと診断されることもありました。しかし狭心症としてニトログリセリンがききにくい微小血管狭心症の存在が知られています。持続性に胸が苦しくなる狭心症の症状を訴える患者さんの中には、微小冠動脈が原因となっている方がいることが近年明らかになりつつあります。

微小血管狭心症の定義は、直径が100μm以下(髪毛の直径にほぼ等しい)の微小な冠動脈の拡張不全、収縮亢進のために心筋虚血が一時的に起こることによって胸部圧迫感が労作と無関係に安静時にも起こる狭心症とされています。その70%は女性が占めるといわれています。発症する年齢は30代半ばから60代半ばで動脈硬化による狭心症に比べると若く、最も多いのは40代後半から50代前半の女性です。この時期はエストロゲンが減少し始めるとともに人生においても様々な問題をかかえ心臓に限らず心身の不調を感じる時期とも重なっています。

微小血管狭心症の症状

微小血管狭心症では、大きな冠動脈の攣縮と異なり、典型的なみぞおちを中心とした短時間の胸部圧迫感ではなく、呼吸困難感、吐き気、胃痛などの消化器症状、背部痛、顎やのど、耳の後部などへの放散痛、動悸など多彩な不定愁訴であることが多く、その持続時間も数分ではなく数時間に及ぶこともあります。冠攣縮狭心症と同じように喫煙、寒冷、精神的ストレスなどが誘因となることも知られています。

微小血管狭心症の診断

鑑別する病気としては心疾患としては不整脈、食道や胃などの消化器疾患、胸部の整形外科的疾患、心身症があります。これらの疾患を除外しつつ、心臓カテーテル検査での冠攣縮誘発試験での所見が最低限必要とされていますが、まだ統一した確定診断のための診断基準は定められていません。

微小血管狭心症の治療

内服薬による薬物治療、禁煙などの生活指導が中心です。血管拡張薬のなかのカルシウム拮抗剤が有効な場合が多いですが、他の薬剤が必要なこともあります。症状により多剤併用を行うこともあります。

 

特に更年期を迎えた女性の方は体内ホルモン環境の変化に加え、社会的にも職場や子育て、家族間の問題などが同時に起こる時期でもあり総合的な対応が必要となります。胸痛に限らず何らかの体調不良があるときにはご相談いただければと思います。

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