ワクチンと訓練免疫
暑さもだいぶん和らぎ過ごしやすい日が多くなりました。新型コロナウイルス感染症の流行状況もいったん落ち着いた印象です。しかしながらこの貴重な時間を冬季に向けた感染流行に対する準備期間と考え、通常ではない体制の構築も必要と考えております。後日お知らせしますが福岡市でもコロナウイルスPCR・抗原検査を市中のクリニックでも行える体制づくりを医師会と福岡市が中心となって準備中です。また同時流行が危惧されるインフルエンザについてもスムーズなワクチン接種ができるように工夫を凝らしたいと思います。
自然免疫と獲得免疫
現在世界各地で新型コロナウイルスワクチンの開発が進んでいますが、以前より結核のワクチンであるBCGが新型コロナウイルスを抑制する話題はマスコミでも上がっていました。その後もそれを支持する報告が世界各地からなされています。先日もオランダで行われていたACTIVATE試験(高齢者の感染症を防ぐためのBCGワクチン接種の効果を確かめる試験)ではBCGにより呼吸器感染症のリスクを75%減少させたと報告されています。https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31139-9
本来のワクチンの対象ではない感染症まで効果を示すメカニズムは明確には解明できていませんが、一つは「自然免疫の訓練免疫」の効果ではないかと言われています。免疫システムは主に自然免疫と獲得免疫の二段構えの体制で構築されています。
自然免疫:ウイルスや細菌などの敵が体内に入ってくると、敵の目印に関係なく真っ先に駆けつけてやっつける免疫反応のことで、マクロファージ、顆粒球、NK細胞といった免疫細胞がそれにあたります。食細胞であるマクロファージや顆粒球がウイルスや細菌などの敵を食べてやっつけます。NK細胞はウイルスや細菌に感染した細胞を破壊し、死んだ細胞は掃除屋でもあるマクロファージが食べて片付けます。自然免疫の由来は「人が生まれつき持っている免疫反応である」ことからきています。自然免疫はあらゆる動物に備わっている、自分の体をウイルスや細菌から守る大切な仕組みです。
獲得免疫:自然免疫の目を盗んで体内で増殖を始めたウイルスや細菌のような病原体が現れた時に活躍する免疫です。敵(抗原)の目印を認識し、敵に合った闘い方ができる高度な免疫反応を指します。この免疫反応の際には、T細胞やB細胞といったリンパ球が活躍します。敵(抗原)に出会うと、これらのリンパ球が大量に増殖され、強い殺傷能力を示すのです。このように獲得免疫は、生まれつき備わっているものではなく、敵(抗原)に出会うと、その敵に応じた闘い方を学んで記憶します。そのため、次に同じ敵に出会った時に、すぐに攻撃をしかけることが可能です。また、獲得免疫は後天的に獲得される免疫反応であるため、自然免疫と分けて獲得免疫と呼ばれます。この獲得免疫の仕組みを活用し、病気を予防したり、治したりする目的でワクチンが生まれました。
なかなか難しい話ですがワクチン仕組みを東大医学部生がわかりやすく演じてくれた動画ありますのでご参照ください。
自然免疫の訓練免疫
従来、自然免疫は長期的に持続せず、また自然免疫は免疫記憶を保持しないと考えられてきました。したがって感染症に立ち向かう新しい仕組みを開発するために、獲得免疫に着目した取り組みが行われてきました。しかし、様々な研究から感染やワクチン接種によって自然免疫も長期にわたって活性化され、他の病原体感染からも守られることが示されています。以前より生ワクチン(弱毒化ウイルス)の接種によって、不活化ワクチンを接種した場合よりも、他の幅広い病原体から防御されるようになることが分かっており、この現象が「訓練免疫」とわれています。新型コロナウイルスが小児に重症例が少ない理由の一つとして、これらの生ワクチン接種の機会が多いことで獲得した訓練免疫が寄与している可能性が指摘されています。
日本で使用するインフルエンザワクチンは不活性化ワクチン(スプリットHAワクチン)であり、訓練免疫の獲得はできませんが、成人でも接種する帯状疱疹ワクチンやアジュバンドが添加された肺炎球菌ワクチン(ブレベナー)は自然免疫の活性化が期待できるのではないかと考えます。
自然免疫を高める生活
①身体を動かす
まずは1日に10分程度の体操をするだけでもよいですから、運動の習慣をつけることが大切です。可能ならば、うっすらと汗をかく程度の時間、散歩ができるとよいでしょう。運動は免疫機能を向上させる他にも、生活習慣病を予防したり、転倒を防いだり、脳を活性化させ るなどの効果があります。
②食事
免疫機能を維持するためには、良質なタンパク賃、ビタミン、ミネラルが必要です。脂肪や糖分ばかりが多くなりがちな洋食に比べて、和食は栄養バランスがよくおすすめです。
③ぐっすり眠る
夜にきちんと眠れば、昼間はすっきり起きて動けるようになります。昼は交感神経が、夜は副交感神経が優位に働くという自然な切り替えをするためにも、睡眠のリズムを確保することが重要です。
④よく笑う
笑うと副交感神経が優位に働きます。また、NK細胞が活性化されることが分かっています。たとえ作り笑いでもそのような効果がみられます。
⑤身体を温める
体温が高いとリンパ球が増えて活性化し、免疫機能が高まります。また、身体が温まると血管が拡張して副交感神経が優位になり、リラックスしやすくなります。 入浴はぬるめのお湯でゆっくりと。40度くらいのお風呂に10分以上つかるとよいでしょう。シャワーだけでは身体が温まらず、交感神経が刺激されるため、あまりリラックスできません。身体を温める食べ物もあります。根菜類、イモ類、しょうがなど、土の中にできるものは身体を温める作用があるといわれます。
⑥リラックスできる時間をつくる
仕事が忙しく、いつも帰りが遅い人は、なかなかゆったりとした時間がもてません。さらに、多忙はストレスから暴飲暴食を招きやすいものです。仕事を早めに切り上げ、30分だけでも早く帰れるようにしてみましょう。 また、責任感が強くまじめな人は、ついがんばりすぎて無理をしてしまうことが多々あります。適度に「手を抜く」ことも、時には必要かもしれません。