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新型コロナウイルス感染症と血栓症、降圧剤(ACE阻害薬、ARB)

[2020.05.17]

今回でコロナウイルス関連の記載は4回目となりますが、この間1か月は感染状況の改善もあり福岡県でも14日に緊急事態宣言の解除に至りました。ただし言うまでもなく、第二波がやってくる可能性は制限解除が先行する海外例をみても十分あり得ますので、今後も感染予防対策は必須と考えられます。当院での対策も日々改善を行っており、来院時の隔離や体温測定など患者様にもご協力いただきながら診療を継続させていただいていることに感謝申し上げます。

さて新型コロナウイルス感染症に対する情報が日々蓄積されていますが、今回は循環器内科の領域に関わる話題について触れてみようかと思います。

新型コロナウイルス感染症と血栓症

いうまでもなく新型コロナウイルス感染症は肺炎をはじめとする呼吸器感染症の症状がメインではありますが、頻度は多くないものの血栓症にまつわる症状の報告が散見されるようになっております。

  •  COVID  toes(コロナのつま先)

大規模感染がおこるイタリアから新型コロナウイルス感染症との関連が疑われる「しもやけ様」の皮膚病変を認める63例の症例レポートが報告されています。通常しもやけは、寒さや冷えなどからくる血行不良が原因で起こる皮膚の炎症のことです。寒冷刺激による血管の収縮で血行障害が起こるわけですが、今回新型コロナウイルス感染症による血管炎による血栓が血行障害を発症させたのではないかと推察されています。特徴は下記のように報告されています。

・10代の若年者に多く

・先行する感染症状(下痢や咳、発熱など)の後に発症することもあるが、8割が単独で発症

・主に足(85.7%)に紅斑性浮腫や水疱を認め、痛みやかゆみを伴う

Chilblain-like lesions during COVID-19 epidemic: a preliminary study on 63 patients.Piccolo, Vincenzo; J Eur Acad Dermatol Venereol ; 2020 Apr 24.

 

 

 

 

 

  •  川崎病

川崎病は5歳以下の小児にみられる急に発症する全身の血管炎の病気です。血管の壁に炎症を起こし、発熱が続き、皮膚の発疹、結膜炎、粘膜疹(のどや口の粘膜が赤くなる)、手足の腫れ、首のリンパ節の腫れがみられます。また重症例では心筋梗塞を合併します。元来原因不明とされておりますが、何かの感染(ウイルスや細菌など)が引き金となることが知られています。今回の新型コロナウイルス感染症では人種的に発生頻度が少ない欧米から通常の数十倍の症例報告がなされており、このことから比較的軽症例が多いといわれる小児の新型コロナウイルス感染症にも留意が必要と考えます。Verdoni et al., An outbreak of severe Kawasaki-like disease at the Italian epicentre of the SARS-CoV-2 epidemic: an observational cohort study. Lancet

  •  深部静脈血栓・肺塞栓、脳梗塞

重症感染症はDIC(播種性血管内凝固症候群)という血液の凝固異常を合併しやすい病態ですが、新型コロナウイルス感染症はその重症度に関わらず高率で血栓形成をきたすとの報告が相次いでいます。これらは呼吸不全以外の病状悪化・突然死のとの関連が疑われています。

・新型コロナウイルス感染症の死亡例の半数以上で深部静脈血栓を認める。Wichmann D, et al. Autopsy Findings and Venous Thromboembolism in Patients With COVID-19: A Prospective Cohort Study. Ann Intern Med. 2020 May 6.

・新型コロナウイルス感染症の約5%で脳梗塞などの脳血管障害を合併する。Management of acute ischemic stroke in patients with COVID-19 infection: Report of an international panel.

以上のように新型コロナウイルス感染症には血栓症疾患の合併が高頻度であることから、日本血栓止血学会は自宅やホテルでの安静隔離の軽症例であっても下肢の運動や弾性ストッキング着用などを推奨しています。http://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2020/05/20200513_2.pdf

 

新型コロナウイルス感染症と降圧剤(ACE阻害薬・ARB)

まったく関連のない感染症と高血圧の分野ですが、コロナウイルスが人体に感染するには細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体:心機能と高血圧および糖尿病の発症に関与)に結合したのち、細胞内に侵入して感染が成立するといわれています。高血圧治療薬のACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬 )はACE2受容体を増加させる可能性があり、新型コロナウイルス感染症の発症に影響を与えると予想されたことから、以前から増悪または抑制するとの相反する説が入り乱れていました。

これに対して5月に入り実際の新型コロナウイルス感染症症例での検討結果が報告されました。結論から言えば少なくともACE阻害薬、ARBともに内服することで入院をしやすくなったり、死亡しやすくなったりする効果はありませんでした。

下記の図は死亡症例と生存症例の危険因子を解析した図ですが、従来から言われているように高齢者(65歳以上)や心疾患や肺疾患(肺気腫など)、喫煙者は軒並み2倍前後リスク上昇がある一方、ACE阻害薬についてはむしろ有意にリスクを67%軽減する(OR 0.33、0.2-0.54)結果となっています。Cardiovascular Disease, Drug Therapy, and Mortality in Covid-19.Mandeep R. May 1, 2020/NEJM

また入院するリスクについてもACE阻害剤(OR 0.80、0.64-1.00)またはARB(OR 1.10、0.88-1.37)ではリスクの有意な増加は観察されませんでした。以上より現状多くの方に使用している降圧剤であるACE阻害薬、ARBの中止・他剤変更などの必要性は現時点ではないと判断します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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